認知バイアス辞典

ア行

ア行 内容/具体例
後知恵バイアス

物事が発生した後に「そうだったと思った」と、まるで予測可能だったと考える心理的傾向。

アロンソンの不貞の法則

関係性の強い人からの評価よりも、関係性の希薄な人からの評価の方が承認欲求が満たされ嬉しい気分になるという心理。

アンカリング(係留)効果、調整ヒューリスティック

最初に提示したアンカーによって考えが左右されてしまうこと。
アンダードッグ効果、判官びいき 競争や対立の場面で、不利な状況にある者やグループに対して同情して応援したくなる心理現象。
一貫性バイアス ある人の過去の態度や行動が現在もほぼ変わらず近い状態であると思い込むことを指す、観察者バイアスの一種。
エコーチェンバー 自分と似た意見や思想を持った人々の集まる空間内でコミュニケーションが繰り返され、自分の意見や思想が肯定されることによって、それらが世の中一般においても正しく、間違いないものであると信じ込んでしまう傾向。似たものに、フィルターバブルがある。
お前だって論法 相手の主張する議論を貶めるために、相手がその主張に沿った振る舞いをしていないと断言するような論法。1:人物Aが、主張をする。2:人物Bが、Aの行動や過去の主張などは、主張に沿ったものではない、と主張する。3:したがって、主張Xは誤りである。
オーバーコンフィデンスバイアス 自信過剰なために状況を正しく判断できず、不合理な行動をとってしまう心理的傾向。例:自分の知識や経験を過信して、投資判断や経済分析に自信を持ちすぎるなど。

カ行

カ行 内容/具体例
確証バイアス

 自分の思い込みや仮説を肯定する情報に注目し、それ以外の情報を見過ごしてしまう傾向。例:相手の血液型がAB型だとわかると、AB型は自由奔放という情報にばかり目がいく。

画像優越性効果

画像や写真の方が文字や言葉よりも記憶に残りやすい。

カリギュラ効果

禁止や制約自体によって事柄に対する興味が新たに生まれる。映画「カリギュラ」に由来する。≒心理的リアクタンス、シロクマ効果

間隔効果

一定の間隔を置いて学習を繰り返すことで記憶に残りやすくなる効果。

観察者バイアス

 観察者が期待した結果を得たいという思い込みから、それ以外の結果を見過ごしたり軽んじたりする傾向。

感情バイアス

 感情によって判断や評価、意思決定が左右されるバイアス。例:好意的な人材がミスをしても寛容だが、好意的でない人材が同じようなミスをすると厳しく評価する。

帰属のエラー

ある人の行為の原因を考える際に、環境よりもその人の内面を重視してしまう傾向。

気分一致効果  気分がよいときはポジティブな情報、気分が悪いときはネガティブな情報が思い出しやすい。
希望的観測≒確証バイアス  物事のなりゆきを自分に都合の良いように捉える認知バイアスの一種。
ギャンブラーの誤謬 ある事象の発生頻度が特定の期間中に高かった場合に、その後の試行におけるその事象の発生確率が低くなると信じてしまうという誤謬。例: ルーレットで赤が5回ほど続くと,次こそは黒が出ると思いがちになる。
虚偽記憶 実際には起こっていないことを思い出したり、実際に起こったこととは異なるように思い出すこと。
クオート・マイニング  作為的な引用。
クリプトムネシア 自分が昔に見たことや聞いたことを、今になって自分のオリジナルのアイデアだと勘違いしてしまう現象。
クレショフ効果  無関係の画像や映像を連続して見たときに、無意識に関連づけて考えてしまう心理現象。例:病院の画像の次に人の画像を見ると、「この人は具合が悪いのではないか?」などのイメージを連想する。
現在志向バイアス  将来の利益よりも目の前の利益を優先してしまう心理傾向。例:夏休みの宿題を最終日まで残してしまうなど。
現状維持バイアス、保守性バイアス  変化を避けたり、現状のやり方や慣習を変えずに維持したりしようとする心理的傾向。例:飲食店でいつも同じメニューを注文する。
行為者-観察者バイアス 自分の行動は外的な状況に、他人の行動は内的な特性に原因を求める心理的傾向。例:遅刻した時に、自分の場合は電車の遅れなど交通網=外部に原因があるとし、他者の場合はいい加減な性格=内面の問題だと決めつける。
合接の誤謬、連言錯誤⇒リンダ問題

 一般的な状況よりも特殊な状況の方が確からしい(蓋然性が高い)と誤判断すること。

誤情報効果

ある出来事に関する記憶が、誤った情報に接することによって変化してしまう現象。

コンコルド効果≒サンクコスト

 損失が出ると分かっていながら、それまでに費やした時間やお金などを惜しんで行動を続けてしまう心理的傾向。

ゴーレム効果

周囲からの期待や評価が低いことでパフォーマンスが低下する心理効果。

サ行

サ行 内容/具体例 
錯誤相関 実際には関連性がない事象の間に、間違った関連性を見出す傾向のこと。差別や偏見を生み出す原因になることも多い。
サフィックス効果 通常は、リストを覚えるときには、最後のほうの項目が覚えやすいが、リストの最後に関係のない単語(接尾辞)を付け加えることで、リストの覚えやすさが低下する効果。
 サンクコスト効果≒コンコルド  すでに支払ったコストや投資が回収できないにもかかわらず、「もったいない」という心理が働き、不合理な行動を取ってしまう現象。
シミュレーション・ヒューリスティック 経験や先入観などから架空のシナリオを思い描いて結果を推定するやり方。1:将来の予想・2:因果推論・3:反実仮想などで仮想なシナリオをつくってしまうこと。
集団同調性バイアス

周囲の意見や行動に流されて、自分と同じ行動を取ってしまう心理傾向。例:火災警報器が鳴っているにもかかわらず、「みんな逃げてないし大丈夫だろう」と感じてしまい結果逃げ遅れてしまうなど。

循環論法 前提のなかに結論をあらかじめ入れておく論法。たとえば「彼のいったことは信用してよい。なぜなら彼はよい人だから。そうして彼がよい人だということは、彼のいうことは信用してよいということからわかる」
シロクマ効果≒心理的リアクタンス、カリギュラ効果 自分は考えないようにしているのに、逆にそのことが頭から離れなくなってしなう現象。心理学者ダニエル・ウェグナーの行った「シロクマ実験」に由来。
心理的リアクタンス≒カリギュラ効果、シロクマ効果

自由を制限されると、その制限に対して反発する心理。≒カリギュラ効果、シロクマ効果

 真理の錯誤効果 以前にその情報に接したことがあるという理由だけで、その情報が真実であると信じやすくなる認知バイアス。
ストローマン手法、藁人形論法、かかし論法 議論において、相手の主張を歪めて引用し、その歪められた主張に対して反論するという誤った論法。例 X:私は雨の日が嫌いだ。Y:もし雨が降らなかったら干ばつで農作物は枯れ、ダムは枯渇し我々はみな餓死することになるが、それでもX氏は雨など無くなったほうが良いと言うのであろうか。
正常性バイアス 自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりするという認知特性。韓国の地下鉄火災で被害が広がってしまったのが、このバイアスの、危機的状況の中でそれを正常な日常生活の延長上の出来事として捉えてしまい、都合の悪い情報を無視してしまったりということがあった。
生存者バイアス

成功した事例や生き残った事象だけを基準に判断して、失敗した事例や脱落した事象を無視してしまう認知バイアス。

選択のパラドックス

選択肢が多すぎることで、選ぶことが難しくなり、後悔や不満を感じやすくなる心理効果。

タナ行

タナ行 内容/具体例
対人論法 非形式的虚偽で感情に訴える虚偽の一つ。議論に参加する人びとの個人的感情、偏見、傾向、性格、地位などに訴えて、いつわりの説得力をもつ論証。人に訴える論証。
代表性ヒューリスティック ステレオタイプ(代表的なイメージ)と比べて判断するやり方。例:「外国人っぽい見た目の人は英語を話すのだろう」という推定
ダニング=クルーガー効果

自分の能力を正しく評価できず、過大評価してしまう心理現象。実際の評価と自己評価のズレ。

チェリー・ピッキング 数多くの事例の中から自らの論証に有利な事例のみを並べ立てることで、命題を論証しようとする論理上の誤謬。「いいとこどり」「つまみ食い」の意味。
デュレーションネグレクト

経験の長さがその記憶に与える影響が小さいことを意味する。痛みなどの不快な経験の評価は、その経験の長さにはあまり依存しない。経験のうちの、「最も痛かったとき」と、「痛みがどのように減少したか」が評価に影響する

投影バイアス 他人の信念や感情、価値観などを自分と同じだと過剰に推測してしまう認知バイアス。
内集団バイアス 自分が所属する集団(内集団)のメンバーを、所属していない集団(外集団)のメンバーよりも高く評価したり好意的に感じたりする心理的傾向。例:自分の母校を応援するなど。

ハ行

ハ行 内容/具体例
バックファイア効果  自分の考えや信念と対立する情報を提示された際に、反発する結果としてその考えをより強固にする心理的傾向。≒カリギュラ効果、心理的リアクタンス、ブーメラン効果。
ハッスルバイアス

自分が最も楽に処理できるような仮説のみを考える認知バイアス。特に医療の診断において、診断エラーの原因となる可能性がある。

ハロー効果≒ピグマリオン効果

ポジティブ・ハロー効果:良い特徴に引きずられて、他の特徴も高く評価してしまう。②ネガティブ・ハロー効果:悪い印象に引きずられて、他の特徴も低く評価してしまう。

バーナム効果  誰にでも当てはまる一般的な内容を自分だけに当てはまるように感じてしまう心理傾向。例:コールドリーディングなど。
ピグマリオン効果⇔ゴーレム効果 他者からの期待によって、実際にその期待に応えた行動や成果を出す心理効果。
フィルターバブル サイトの検索アルゴリズムが、各ユーザーが見たくないような情報を遮断する機能のせいで、まるで「泡」の中に包まれたように、自分が見たい情報しか見えなくなる現象。
覆面男の誤謬 認識を事実とすり替えて推論してしまうことである。「神が存在することを示す確たる根拠のひとつは、私の中に存在することである」(前者は事実的問題、後者は認識的問題)。三段論法。前提1:ピーターは覆面男である。前提2:彼女はピーターと知り合いである。結論:したがって彼女は覆面男と知り合いである。
プライミング効果 先行する刺激(プライマー)が、その後の刺激(ターゲット)の処理に影響を与える心理学的効果。例:10回クイズで「シンデレラ」と似た音の「シャンデリア」という言葉が記憶に刷り込まれ、「白雪姫」ではなく「シンデレラ」という答えが誘発されやすくなる。
フレーミング効果 同じ情報でもその提示方法によって、人々の判断や意思決定が変化する心理効果。例:コップに水が半分入っているのを見たときに、「半分も入っている」という肯定的なフレームと、「半分しか入っていない」という否定的なフレームがある。
フロリダ効果、イデオモーター効果 プライミング効果の1つの実験で、事前に提示された情報に影響されて行動や思考が変化する現象。例:「しわ、はげ、忘れっぽい」などの老人を想起させる単語で作文をさせる。その後の歩行速度を計測する。被験者の歩行速度が通常より遅くなる。

マヤラワ行

マヤラワ行 内容/具体例
リスキーシフト

集団で意思決定をする際に、個人よりもリスクの高い選択をしてしまう心理現象。

利用可能性ヒューリスティック(可用性バイアス)、アベイラビリティバイアス 利用可能性ヒューリスティックは、スピーディーな判断を要する場面で、1:頻繁に接しているもの2:個人的に関わりのあること3:インパクト4:具体性のあるものを利用しがちである。
リンダ問題、連合錯誤 リンダは31歳、独身で、率直に意見を言い、非常に聡明である。大学では哲学を専攻した。学生時代、彼女は、人種差別や社会正義の問題に強く関心をもち、反核デモに参加していた。次の2つのうち、どちらの可能性が高いだろうか。A:銀行の出納係をしている。B:銀行の出納係であり、女性解放運動もしている。Bを選ぶほうが多い。
 ルールバイアス 正しいとされるルールに盲目的に従うこと。

形式的誤謬

前件否定の誤謬 前件が否定されることから後件も否定するところに生じる。例、「ある図形が正三角形ならばそれは二等辺三角形である」「その図形は正三角形ではない」故に「それは二等辺三角形ではない」という推論。二等辺三角形は正三角形以外にもある
 後件肯定の誤謬  後件を肯定することによって前件をも肯定するところに生じる。例えば、「ある図形が正三角形ならばそれは二等辺三角形である」「その図形は二等辺三角形である」故に「それは正三角形である」という推論。二等辺三角形は正三角形以外にもある
選言肯定の誤謬 「A または B である。A である、従って B ではない」という形式の推論。「ゴッホは天才または狂人である。ゴッホは天才である、従ってゴッホは狂人ではない」という形式で、天才と狂人が同時に成り立ちうる可能性を無視している。
四個概念の誤謬

三段論法には通常3つの(論理形式に関わらない)語句が出現するが、4つめの語句を導入することで誤謬となる。「1:魚にはひれがある。2:人間は脊椎動物である。3:魚は脊椎動物である、4:従って人間にはひれがある」は明らかな誤謬。

媒概念不周延の誤謬 三段論法において媒概念が周延的でない。「1:全ての Z は B である。2:Y は B である。3:従って、Y は Z である」の場合、媒概念 B が周延的でない。「1:すべての魚は脊椎動物である。2:人間は脊椎動物である。3:よって、人間は魚である」。

非形式的誤謬

公正世界誤謬 全ての正義は最終的には報われ、全ての罪は最終的には罰せられる、と考える。「我欲に天罰が下った」「カーストが低いのは前世でカルマが悪かったからだ」など、加害者や天災よりも被害者や犠牲者の「罪」を非難する。
早まった一般化  1:カラスは飛べる。2:スズメは飛べる。3:タカは飛べる。よって、全ての鳥は飛べる。
二分法の誤謬 非論理的誤謬の一種であり、実際には他にも選択肢があるのに、二つの選択肢だけしか考慮しない状況を指す。
間違った類推

重大な相違を無視して事象の類似性に基づいて論証(類推)すること。「酒とコーヒーは似たような嗜好品だ。飲酒は法律で規制されている。よってコーヒーを飲むのは法律で規制されているはずだ」

例外の撲滅 例外を無視した一般化を元に論旨を展開すること。「ナイフで人に傷をつけるのは犯罪だ。外科医はナイフで人に傷をつける。従って、外科医は犯罪者だ」。
偏りのある標本 母集団から見て偏った例(標本)だけから結論を導くこと。「(日本在住の人が)周囲には黄色人種しかいない。よって世界には黄色人種しかいない」。
擬似相関(相関関係と因果関係の混同) 相関関係があるものを短絡的に因果関係があるものとして扱う。「撲滅された病気の数とテレビの普及には相関関係がある。よってテレビが普及すれば病気が撲滅される」
前後即因果の誤謬 A が起きてから B が起きたという事実を捉えて、A が B の原因であると早合点すること。呪術と病気の治癒は因果関係ではなく前後関係である。
滑りやすい坂論法、ドミノ理論 いったん坂をすべり出すと最後まで止まることはできないので、最初の一歩を踏み出すべきでない、議論。「Aという事柄は、それ自体は望ましいものであるか、少なくとも道徳的に不正だとはいえない。しかし、Aを認めるとBという道徳的に不正な事柄まで認めざるを得なくなる。ゆえに、Aを認めることはできない」必ずしも誤謬とは限らない。
因果関係の逆転 因果関係を逆転させて主張する。例えば「車椅子は危険である。なぜなら、車椅子に乗っている人は事故に遭ったことがあるから」。「バスケットボールの選手は身長が高い。よってバスケットボールをすると背が伸びる」
テキサスの狙撃兵の誤謬、クラスター錯覚 本来相関のないものを相関があるとして扱う。上官が狙撃兵に腕前を問うたところ、遠くにある壁の標的の真中に命中しているのを指し示したため腕前に感心したが、実は壁の銃痕にあとから標的を描いただけだった、というテキサスのジョークに由来する。
論点の先取 結論を前提の一部として明示的または暗黙のうちに使った論証。形式的には間違っていないが、結論が前提の一部となっているため、全体として真であるとは言えない。「彼は正直者なんだから、ウソを言うわけないじゃないか」。
曖昧語法 文法的に曖昧な文形で主張をすること。「十代の若者に自動車を運転させるべきではない。それを許すのは非常に危険だ」という文章では、若者が危険な目にあうと言っているのか、若者が他者を危険にさらすと言っているのか曖昧である。
多義の誤謬、媒概念曖昧の虚偽 1:湘南の風は目に見えない。2:貴方がたは湘南乃風である。3:故に、湘南乃風は目に見えない。
ソリテス・パラドックス、砂山のパラドックス、テセウスの船、連続性の虚偽 述語の曖昧性から生じるパラドックス。砂山から砂粒を取り去っても依然として砂山のままだが、それから何度も取り続けて、最終的に一粒だけが残ったとき、その一粒だけを指して「これは砂山である」と言えるのか、という問題。テセウスパラドックス(同一性の問題)。ある物体において、それを構成するパーツが全て置き換えられたとき、過去のそれと現在のそれは「同じそれ」だと言えるのか否か、という問題
多重質問の誤謬 質問の前提に証明されていない事柄が含まれており、「はい」と答えても「いいえ」と答えてもその前提を認めたことになるという質問形式。「君はまだ天動説を信じてるのかね?」という質問は、「はい」でも「いいえ」でも「過去に天動説を信じていた」という暗黙の前提を認めたことになる。